物件の購入手続きや、所有する不動産の売却手続きを不動産会社へ依頼するときに交わす媒介契約について解説します。(2020年12月)

媒介契約とは

媒介契約とは、依頼者の不動産売買の契約成立のために宅地建物取引業者が行う業務内容を明確にしたものであるとともに、契約が成立したとき宅地建物取引業者が媒介報酬の請求を確実に行うことができるようにするためのものです。つまり、依頼者にとって、宅地建物取引業者に対する業務委託の契約書にあたるものと考えればいいと思います。
したがって、媒介の依頼時点で契約を締結することが望ましいでしょう。
例えば、売主に対しては、物件調査に基づく価格査定の報告を経て、売却活動(売買の相手方の探索行為)に関する依頼を受けた時点で媒介契約を締結します。
買主(購入検討者)に対しては、取引条件などを明記した購入申込書などを買主から取得する時点で媒介契約の締結を行うのが望ましいでしょう。

媒介契約の類型

媒介契約には、「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があり、それぞれに特徴があります。

媒介契約の類型

自己発見取引とは

依頼者が媒介業務を依頼した宅地建物取引業者を通さず、自ら発見した相手方(友人、知人を含みます)と目的物件の売買または交換の契約を成立させることを自己発見取引と言います。
専属専任媒介契約では依頼者による自己発見取引を禁じていますが、万一、依頼者が他の宅地建物取引業者へ重ねて媒介を依頼して契約を成立させたり、自己発見取引によって契約を成立させた場合、専属専任媒介契約を締結した宅地建物取引業者は依頼者に対して契約違反に基づく違約金(約定報酬額に相当する金額)の請求をすることができます

 

媒介契約における宅建業者の義務

宅地建物取引業者には、媒介契約の類型別に業務内容に関する義務がそれぞれ設けられています。なお、宅地建物取引業者に課せられた義務に関して依頼者との間で合意に基づき規定に反する内容(依頼者にとって不利となる内容)の取り決めをしたとしても無効となります。

専任媒介契約 専属専任媒介契約 備 考
指定流通機構への登録義務 契約締結日から7日以内 契約締結日から5日以内 休業日は除く
依頼者への登録済証の交付義務 遅滞なく交付 遅滞なく交付
指定流通機構への成約報告 遅滞なく報告 遅滞なく報告
売買等の申込みに係る依頼者への報告義務 遅滞なく報告 遅滞なく報告 一般媒介契約にも適用
依頼者への業務処理状況の報告義務 2週間に1回以上 1週間に1回以上

指定流通機構への登録とは

指定流通機構が導入している情報ネットワークシステムを「レインズ」(不動産流通標準情報システム)と言います。
これは、広く取引の相手方を探索し、早期の成約を目指すことを目的として、建設省(現、国土交通省)と不動産流通近代化センターとが共同して設計・開発した情報処理システムです。
そのため、仲介の依頼が1社に限られる「専任媒介契約」もしくは「専属専任媒介契約」を結んだ場合、不動産会社は依頼された物件の情報を一定期間内にレインズへ登録することが義務付けられています。なお、売主が依頼した物件の情報がレインズに登録されると、登録済証が売主へ交付されます。

 

媒介契約に関する宅建業法上のルール

宅地建物取引業法では、お客様の保護や紛争の防止、および不動産流通の円滑化を図るために契約内容の書面化と交付の義務を定めたり、報酬に関する規定を設けています。

契約内容の書面化と交付義務

宅地建物取引業者は宅地又は建物の売買、交換の媒介契約を締結した時、遅滞なく一定の事項を記載した書面(これが「媒介契約書」です)を作成して、記名押印したものを依頼者へ交付する義務を負っています。

価格根拠の明示義務

宅地建物取引業者が依頼者から不動産の売却依頼を受けたときに、目的物件の売買すべき価額や評価額について意見を述べる場合は、依頼者からの請求の有無にかかわらず、その根拠を明らかにする義務を負っています。

契約の有効期間と更新

「専任媒介契約」と「専属専任媒介契約」の有効期間は、期間の定めをする場合3ヵ月を超えることができません。期間の定めをしなかった場合には3ヵ月となり、3ヵ月よりも長い期間を定めた場合には3ヵ月に短縮されます。
また、依頼者の申出によってのみ更新することができますが、更新にあたっても、更新時から3ヵ月を超える期間を定めることはできません。
したがって、「依頼者の更新拒否の申出がない限り更新される(いわゆる自動更新)」といった特約を定めて媒介契約を締結しても、その特約部分は無効となります。

建物状況調査のあっせん等に関連する義務

既存建物(=既存住宅)の売買又は交換の媒介契約締結時に、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面を依頼者へ交付しなければなりません。実務では、媒介契約書の中に記載することで、その義務を果たしています。

 

標準媒介契約約款の使用

宅地建物取引業者が依頼者との間で媒介契約を締結する際は、原則として「標準媒介契約約款」を使用するよう指導がなされています。
この「標準媒介契約約款」とは、媒介制度の施行にあたって建設省(現、国土交通省)が契約を類型化し、標準的な約款を作成したもので、依頼者が一目で標準媒介契約約款であるか否か確認できるよう、媒介契約書の右上すみに「この媒介契約は、国土交通省が定めた標準媒介契約約款に基づく契約である」旨の表示をすることにしています。

標準媒介契約約款と宅建業法との相違点

宅建業法で明文化がないこと 標準媒介契約約款での定め
一般媒介での明示・非明示の別 明示型と定めているため、非明示型にするには、特約にてその旨を定める必要がある
一般媒介の有効期間 3ヵ月まで(更新時も同じ)
専任又は専属専任媒介契約における業務処理状況の報告方法 文書、又はEメールのいずれか