不動産売買契約に付帯されるローン特約と、住宅ローンの審査で融資が否認されたときの契約解除について解説します。(2020年12月)

ローン特約とは

住宅ローンの申込は不動産売買契約の締結後に行われます。つまり、買主が売買代金の全部又は一部に充当するために住宅ローンを利用する場合、資金調達ができるかどうかわからないまま、先に契約をしてしまうことになるのです。

そのため、もしも買主の申し込んだ住宅ローンが金融機関から否認されてしまった場合、買主は売買代金の支払いができないことによる賠償責任を負わなければならないことになります。
これでは、あまりにも買主のリスクが大きすぎます。

そこで、買主保護の観点から、買主に責任(故意・過失)がないことを前提に、住宅ローンの融資が否認された場合にペナルティなく、その不動産売買契約を解除できるようにするために「ローン特約」を付帯するのが一般的なのです。

なお、不動産売買契約にローン特約を付帯する場合、借入先の金融機関名や融資額、融資否認による契約解除期限などを明確にしておく必要があります。これは、融資の否認による契約解除をめぐるトラブルを防止する目的からです。

例えば、ローン特約の対象となる住宅ローンについて、どの金融機関のものなのかを具体的に決めておかなければ、買主が望まない金融機関から融資承認が得られた場合に、契約解除ができる、できない、でトラブルになってしまうこともあるのです。

したがって、融資申込先は、「都市銀行」などとするのではなく、「〇〇銀行」といったように、具体的に売買契約書へ明記しておくことが望ましい対応です。

 

ローン特約は2種類ある

ローン特約は「解除権留保型」と「解除条件型」の2つに大別することができます。

解除権留保型のローン特約

「ある事実が生じたとき、契約を解除するか否かについて解除権を留保している者の選択に任せる」という内容の特約です。この場合、解除権を留保している者(住宅ローンを利用する買主です)が、その権利を行使して、はじめて契約の効力は消滅します。

《一般的な売買契約書の条項例》

解除権留保型のローン特約条文
融資内容

 

上記の条項例にある第2項では、融資が否認などされた場合に「買主は契約解除期限まではこの契約を解除することができる。」と定めていることから、このローン特約は「解除権留保型」であることがわかります。

解除権留保型のローン特約による契約解除の流れ

このタイプのローン特約では、買主から契約を解除したい旨の意思表示がなければ、たとえ住宅ローンが否認されたとしても売買契約は失効しません。
そのため、融資承認期限までに融資審査の結果を得た上で、売買契約を継続するのか、それとも解除するのか、契約解除期限までに買主の意思を明確にする必要があるのです。

解除条件型のローン特約

「条件が成就したときに契約の効力が消滅する」という内容の契約です。この場合、条件が成就した時点で契約は当然に効力を失うことになります。

《一般的な売買契約書の条項例》

解除条件型のローン特約条文

 

上記の条項例にある第2項で、融資承認が得られない場合に「この契約は自動的に消滅する。」と定めていることから、このローン特約は「解除条件型」であることがわかります。

解除条件型のローン特約による契約解除の流れ

このタイプのローン特約では、買主が利用する住宅ローンが否認された時点で契約が解除されますから、契約を継続するかどうかについて買主の意思を確認する必要はありません。

 

ローン特約の注意点

ローン特約には、契約解除期限が設けられます。
期限内であれば、買主は契約を解除しても売主から手付金の返還を受けられますし、売主に対する債務(売買代金の支払い)不履行による賠償責任も負わなくて済みます。
一方で、解除期限を過ぎてしまえば、たとえ融資の否認が理由であっても契約を解除しようとすれば、買主は債務不履行による賠償責任を負うことになってしまいます。
つまり、ローン特約における契約解除期限は、とても重要な意味を持っているのです。

実務では、融資の審査結果を得るまで思った以上に時間がかかってしまったり、融資の借入手続きをする中で申込み先を変更したりするなどの理由から、契約解除期限(あるいは融資承認期限)までに融資審査の結果が得られない場合があります。
そのようなときは、ローン特約による契約解除期限を延長するのが一般的な対処方法になります。

この場合、売主及び買主の合意により契約解除期限が延長されたことを明確にするとともに、後日のトラブルを防止するため、必ず「融資申込先等の変更に関する覚書」などの書面を作成して、契約解除期限が到来する前に、売主及び買主の双方が(宅建業者が仲介している場合はその宅建業者も)署(記)名押印しておくようにします。

 

融資が否認されたときの手続き

残念ながら融資が否認されたことによって売買契約の解除を行う場合には、後日のトラブルを防止するため、「融資否認による契約解除の合意書」などの書面を作成して、そこに売主及び買主の双方が(宅建業者が仲介している場合はその宅建業者も)署(記)名押印した上で、それぞれが原本を保有するようにします。

例えば、解除権留保型のローン特約であれば、契約解除期限が到来するまでに、解除条件型のローン特約であれば、契約が失効した後すみやかに書面を交わすようにします。
そして、売主及び買主の両当事者間で授受された手付金は買主へ返還されます。

なお、売買契約締結時に、売主又は買主が仲介をした宅建業者へ仲介手数料を支払っていた場合は、それも当事者へ返還されることになります。